こちらは、とてもよくご訪問させていただいております魔法の世界
のなつき様からキリ番500のリクエストを頂いちゃいました〜!!!ほんわかとした雰囲気がとても気に入っております!
ありがとうございました〜!



空を見上げれば。

冷たい雨が、屋根のひさしから流れる。
激しくなった雨は、石畳を打ちつけている。
行きかう人々は、雨に濡れないようにと、上着を頭にかぶせたりして走っていく。
革靴が水たまりを踏むたびに、水音がする。

いきなりの雨だった。
さっきまでは、晴れていたのに。
「しばらく止みそうにないわね」
「そうだね」
一組の男女が、閉まっている店の軒先で、雨宿りをしていた。
男性は、金髪と緑の瞳の端整な顔立ちの青年だ。派手な服を着ていた。
女性は、あかがね色の長い髪と青い瞳の美しい少女だ。地味な紺色のドレスを着ていた。
このふたりは、がやがや町にあるジェンキンス生花店の店主とその恋人だ。
青年の名は、ハウル・ジェンキンス。少女は、ソフィー・ハッター。
彼は実は、インガリー国王に仕えている王室付き魔法使いで、動く城の魔法使いである。
「せっかく、久しぶりに休みだからって出てきたのに」
ため息をついて、ハウルは言った。
「まったくだわ。そういえば、カルシファー出かけたわよね。大丈夫かしら?」ソフィーがそう言えば、彼は不機嫌そうに言う。
「あんたってひとは! 恋人と一緒にいるっていうのに、カルシファーの心配かい?」
「だって、雨に濡れたら消えちゃうじゃない。ハウルは心配じゃないの? 契約は切れたのに、城に残っていてくれるのよ」
「そりゃあね。でも、今、ソフィーにはぼくのことだけ考えていてほしいんだ」彼女の手をきゅっと握る。
「ぼくたち、恋人だよね?」
にっこりと微笑んで、顔をのぞきこむ。
「……そうよ」
ほんのり頬を染めて、答える。
その直後、ソフィーは、くしゅん、と小さなくしゃみをした。
「ソフィー、大丈夫? 寒い?」
ハウルが驚いて、尋ねる。「少しね」
彼女がそう答えると、ハウルは着ていた上着を脱いで彼女に羽織ってあげた。
「……ありがとう」
頬を染めて、彼女はハウルにお礼を言った。
「どういたしまして。それにしても、早く雨、止むといいね。これじゃあ、どこにも行けやしない」
空を見上げて、彼はぼやいた。
ソフィーは、上着から彼の香水の香りがしたので、思わず顔が熱くなった。
「どうしたの、ソフィー? 顔、赤いよ」
首をかしげて尋ねるハウルに、ソフィーはどきりとする。
「えっ? な、なんでもないわ」
「ほんとに?」
「ほんとよ!」
つい、むきになってソフィーは言い返してしまう。
「ふーん」
そうして、ハウルは、何を思ったか、握っていた手を離して、彼女を後ろから抱きしめた。
「ちょっ、ハウル!」
あわてふためくソフィーにかまわず、彼はぎゅっと彼女を抱きしめる。
「このほうがあったかいと思わない?」
「もう!」
そう言いながらも、彼女はいやがってはいなかった。後ろからのびたハウルの手に自分の手を乗せ、目をつむる。
ああ、何だか、心があったかいわ。
しあわせってこういうことなのかしら。
雨が降っていても、今、ソフィーはしあわせだと思った。
ハウルも、そうだといいなと思った。
「ああ、しあわせだな」
ぽつりとハウルがそうつぶやいた。
思わず、彼女は彼を振り返る。
「どうしたの? あんたも、今、同じことを思っていた?」
やわらかい微笑みを彼女に向けて、ハウルは言った。「え、ええ」
頬を染めて、彼女が答えると、
「ぼくたち、心が通じ合ってるね」
ハウルは、それはそれはしあわせそうに微笑んだ。
自然、ソフィーも笑顔になる。
「……ほんとね」
ふたりは、顔を見合わせて、微笑んだ。

ぴちゃん。

屋根のひさしからこぼれ落ちた、しずくの音で、雨が止んだことを知った。
「雨、止んだみたい」
「ほんとだ」
軒先から一歩踏み出すと、雨はもう降っていなくて、石畳を濡らした水たまりだけが残されていた。
ソフィーは、羽織っていた上着をハウルに返した。
「もういいの?」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう」
にっこりと微笑んで、彼女は答えた。
「行こうか」
「ええ」
ふたりは、ふたたび手をつないだ。
石畳を歩くたびに、水たまりから水がはねるが、そんなこと、もう気にしない。そうして、晴れてきた空には、
「見て、虹よ!」
「ほんとうだ。虹なんて、久しぶりに見たなあ!」
見上げた空には、七色の美しい虹がかかっていた。
ふたりは、微笑みあい、手をつないで、歩き出した。久しぶりの、ふたりきりのデートをするために。