彼の部屋
あれから、何日たったのだろう。
ソフィーは、ぼんやりと窓の外を見た。
外は、あの日と同じ、どしゃぶりの雨。
「……何考えてる?」
ふいに、ぐいと顎をとらえられて、彼のほうに顔を向かせられる。
「べつに……あなたと出会って、どれくらいかしら、と思っただけ」
「はっ……」
ハウルは口先だけで笑った。
「そんなこと考えなくていいんだよ。あんたは、今、ぼくのことだけ考えていればそれでいいんだ」
そう言うと、ぐっと頭を押えられて、唇を合わせられる。
「……んっ」
それは、だんだんと深いものへと変わっていった。
貪るような、噛みつくようなくちづけ。
それを受けながら、彼女は、はじめて彼の部屋に来たときのことを思い出していた。
リスクとは、こういうことだったのかと、ソフィーは彼の部屋でされた深いキスで知った。
彼を逃げ道にしていいかわりに、彼女は彼にこういうことをされる。
つまり、彼に彼女の身体を抵抗せずに好きにさせる。
今はまだ、キスだけだけれど、そのうち、それ以上の関係にもなるかもしれない。
経験がまったくないソフィーは、その日が来るのが少しでもいいから、
遅れればいいのにと願わずにはいられなかった。
唇を離したハウルは、彼女の考えを読み取ったかのように、こう言った。
「大丈夫だ。今はまだ、何もしないよ」
「!」
はっとしてソフィーは彼を見返す。
「今はまだ、キスだけで、許してあげるよ」
にやりとひとの悪い笑みを浮かべて、彼は言った。
そんな彼に、彼女は返す言葉もなかった。
ふっ、と笑ったハウルは、ふたたび、ソフィーの唇をふさいだ。
口腔内に侵入してくる、やわらかくてあたたかい舌。
それが、ソフィーの口の中を味わうように、あちこちに動き、舐める。
おかしな感覚に、彼女はそのたびに、びくんと身じろぐ。
ハウルは、座っていたソファーの上に彼女をそのまま押し倒した。
そのことに気がついた彼女が目を見開く。
けれど、両手は彼に押えられて、動けない。
「んーっ、んーっ」
彼は、彼女の抵抗など気にする様子もなく、そのまま、舌を口の中で動かして、味わう。
ハウルが唇を離したとき、彼女の口から、送り込まれた唾液が、つっ、と流れた。
「キス、慣れてないね」
「……っ! あ、あたりまえでしょう!?
あたし、あのときだって、あなたにファーストキス奪われたのよ!?」
そう叫んで抗議すると、ハウルは何が楽しいのか、くすくす笑う。
「そう。それは光栄だな。ぼくがあんたのはじめてだったなんて」
「あたしは……っ」
何か言い返そうとするけれど、口には出てこない。
「あんたは、今、ぼくのキスを受けていることしかできないんだよ」
肩にかかる、あかがね色の長い髪をひと房とって、くちづける。
その所作が、なぜか、とても美しく見えて。
もとから整っているけれど、よけいに。
心臓が、どくんどくんと鳴って、止まらない。
なんだろう、これは。
じっとみつめていると、ハウルは彼女をとつぜん、抱きしめた。
静かな動作で。
「ソフィー、好きだよ」
「……」
嘘の言葉だとわかっているのに、彼女はなぜか、信じたくなった。
その日から、彼女は彼にとらわれている。
逃れられない。
離れることができない。
彼を――好きになってしまったのだ。
深いキスを受けながら、彼女は思わず、腕を彼の背中に回した。
ぎゅっと、強く。
それに気づいたハウルは、よりいっそう、ソフィーを求めた。
うれしいと同時に、せつない。
だけど、そばにいられるなら。
こうして、キスをされるなら。
彼が自分を好きじゃなくても、それでもいいと思った。
END
なつきさんに誕生日プレSSをありがたくも頂戴してしまいましたーww
えと、ホストハウルの方のなつきさんバージョンでお願いしました!
私が書くホストハウルさんよりも、こっちのがかっこよくないか・・・!?(笑
なつきさん!ありがとうございましたーw