人は
常に願い続ける。
自分のために・・・・・・愛する人のために
8:もう一度、君とともに
ソフィーは城から出て行く前に、この動く城全体に魔法をかけた。
自分が出て行くまで皆が眠って目を覚まさないように。と。
嫉妬に狂う私はとても醜くて。
あなたが私からどんどん離れていくのが、つらくて苦しくて、悲しかった。
こんな私は、もうあの城に必要ないと思ったから。
だから、さよならするの。
どこか誰も知らない場所へ。
誰にも見つからない場所へ。
※※※※※
まさに最悪の事態だった。
自分はソフィーをここまで追い詰めていたんだ。
握り締めた拳にますます力が入る。
悔しくて悔しくて、自分が許せなかった。
この怒りを一体どこにぶつければいいんだろう。
でも、今は自分自身に怒りを覚えている場合ではなかった。
とにかくソフィーを探さなければ。
窓の外を見てみれば、もうすっかり陽がおちてしまっている。
早く見つけないと。手遅れになる前に。
ハウルはくるっと方向を変えて、自分たちの部屋のドアへと早足で歩いていった。
すると、部屋の前に一人の少年がたっていた。
少年は流れる涙をずっと拭い続けている。
ハウルはマイケルの近くにいくと、足を止めてじっとマイケルを見つめた。
「ごめんなさい、ハウルさん。 あの時、僕が止めなければこんなことにはならなかったかもしれません。 でも、でも僕はあの時、どうしても・・・どうしても・・・」
許せなかった。と、そういいたいんだろう。
僕の勝手な被害妄想は、ソフィーだけでなくマイケルにも影響を及ぼしていた。
マイケルの優しすぎる性格のせいで、ハウルが思ってた以上に彼を悩ませてしまっていたらしい。
こんな性格の自分がマイケルを育てたというのに、よくマイケルはこんなに優しい性格に育ったと思った。
ハウルはマイケルの頭に手を伸ばし、ぽんぽんと優しく撫でてやった。
こんなことはマイケルがこの城にやってきて初めての行為だった。
これも心臓が戻ってきたせいなのかな?なんて思いながら。
「ごめん、マイケル。お前にはしなくていい苦労ばかりさせているね。 僕も僕自身が許せないんだ」
ハウルはとても悲しそうに、寂しそうに笑いました。
「きっとソフィーを連れ戻してくるよ」
そういってハウルはマイケルをその場に残し、颯爽と階段を下りていった。
そして、止まることなく城の扉へと歩いていき、勢いよく扉を開いて出て行った。
間に合え!!
※※※※
随分と遠いところまで来ちゃったな。
ソフィーはがやがや街から遠く離れた荒地を一人で歩いていた。
手荷物は何もなく、もちろんお金だって持ってきていない。
持ってきたものといえば寒くないように上着を持ってきた。
それだけ。
ソフィーは、ふぅと息を吐いて自分が歩いてきた道を振り返ってみた。
自分が先ほどまでいた町は、もう見えなくなっていた。
そしてその場にゆっくりと腰を下ろした。
地面に座って空を眺めてみると、そこには満天の星が自分達をそっと見守っていた。
ソフィーはその星を眺めながらお腹をそっとさすった。
「この子に見えてるのかしらね。この星が」
がやがや町やキングスベリーからは建物が邪魔をしてこんなにも綺麗に星は見えない。
こうやって何もない場所で星達を眺めてみると、今にもおちてきそうだと感じる。
手を伸ばせば届くんじゃないかというほどたくさんの星たちが空に浮かんでいた。
いつだったか、父が自分に教えてくれたことがあった。
”流れ星に願いを三回唱えると、願いが叶うんだ” と。
幼かったソフィーは何度も何度も流れ星を見ては心の中で願い続けた。
けれども、流れ星は一瞬にしてソフィーの前から消えてしまうので、三回なんてとてもじゃないが
無理な話だった。
そのうちに願うことをしなくなって、ついには流れ星なんてものを見なくなってしまっていた。
シャンッッ・・・・・・
そのとき、頭の上で小さな光が動いた。
正確には空で。
それはそれは小さな流れ星。
何か願い事をしなくちゃ。
そう思ったときには、もうすでに流れ星は消えてなくなってしまっていた。
残念そうに流れ星が消えた場ソを眺めると、ソフィーは、ふと考えました。
私の願いって何だろう?
それは単純な疑問だった。
流れ星に願いをしようとするのはいいが、肝心な自分の願いがわかっていない。
それじゃあ、流れ星をみても意味がないじゃい。
ソフィーはしばらく考え込んだ。
この子が無事に生まれてきてくれること?
確かにその願いはソフィーの中では一番ともいえる願いだった。
そのとき、ふとソフィーの頭にある人物の顔が思い浮かんだ。
とても自信家で自惚れ屋でそれでいてとても臆病な男の笑顔が。
違う違う!!
ソフィーはその考えを切り捨てるように首をぶんぶんと横に振った。
自分の願いはそんなものじゃないと言うように。
ソフィーは目から何か熱いものが溢れ出してくるのを感じて、ばっと上を見上げた。
するとまた空で星が流れた。
ソフィーは空を見て心の中で自分の願いを唱え始めた。
「この子が無事に生まれますように。この子が無事に・・・」
でもやっぱり流れ星は消えるのが早すぎて、長い願いを言うことは無理だった。
「やっぱりだめね」
ソフィーがそう言葉を吐き出したと同時に、ソフィーの瞳から小さな涙がこぼれ落ちた。
それは願い事をいえなくて流した涙なんかではなく・・・。
会いたい。
帰りたい。
ハウルに・・・会いたい。
それはまさにソフィーが思っていた本当の願いだった。
どんなにハウルに必要とされていなくても、あの城にいる意味がなかったとしても 一緒にいたかった。
側にいたかった。
城の事を思うほど胸が痛くなり、ハウルの事を考えるだけで悲しくなった。
ソフィーは空を見上げて再び流れ星が流れるのをしばらく待った。
すると、また一つシャンッと音を立てて流れ星が一つ流れ落ちた。
「会いたい。会いたい。会い・・・」
少し惜しかったけれど、やっぱりまた上手くいかなかった。
ソフィーは顔を地面にやると、ぽたぽたと涙を流した。
以前の自分はこんなに泣き虫じゃなかったのに。ハウルと会ってからあの人の泣き虫さが 自分にもうつったのかもしれない。
そのとき、また空からシャンという音とともに流れ星が流れた。
ソフィーはゆっくりと顔を上げて、空を見上げてみた。
そこにあったのは流れ星。それも一つじゃない。
数えるのも難しいくらいのたくさんの流れ星が流れていた。
これなら願い事を3回・・・いや10回は唱えられるだろう。
星達は止まることなく、いくつもいくつも流れ続けていた。
ソフィーはゆっくりと口をひらき、今度は心の中ではなく口に出して願ってみた。
帰りたい。帰りたい。帰りたい。
ソフィーが願いを3回唱えても、流れ星たちは全く消える気配はなかった。
それに比例して、ソフィーの目からもたくさんの涙がこぼれ落ちた。
会いたい。会いたい。・・・・・・
そこでソフィーは言葉を切った。
涙が止まらなくて、口にすることも困難になってきた。
自分の願いを口にしたら、ハウルへの想いがどんどんどんどん強くなっていって。
「・・・うぅ・・・うっ・・・」
ソフィーは口元を押さえて嗚咽をこらえた。
空で今も流れ続けている星たちは、まるで自分を励ますかのように一層輝きを増した。
がんばれ、がんばれというように。
会い・・たい。会いたい。・・・・・
・・・・・・ハウルに・・・会いたい・・・・・・・・
ほら、3回いえたじゃないか。
ソフィーが願いを言い終わると、まるでソフィーが言い終わるのを待っていたかのように 流れ星たちは、ゆっくりと姿を消していった。
流れ星が姿を消したと同時にソフィーの後ろからパキッと何かを割るような音がした。
その涙に濡れた顔でソフィーはゆっくりと音がするほうへと顔を向けた。
そこにいたのは先ほど会いたいと願っていた自分物で。
「ソフィー・・・・・」
ハウルはとても情けなさそうな顔で自分を見ながら言った。
ハウルがこの場所に来たことはとても驚いたけれど、なぜだかとても冷静に彼を見ていたと思う。
ただ、久し振りに顔を見たなっていうことと
叶ちゃった。っていう本当にマヌケな頭の中だったと思う。
ハウルが自分の視界に入ったとき、想いが次々と溢れてきて。
涙が止まらなかった。